山 行 記 録

【平成18年7月30日(日)/湯ノ沢岳〜母狩山〜金峯山縦走



母狩山山頂


【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】摩耶連峰
【山名と標高】 湯ノ沢岳(ゆのさわだけ)963.9m、三ノ俣山(さんのまたやま)660.2m、母狩山(ほかりさん)751.0m、鎧ヶ峯(よろいがみね)566m、金峯山(きんぽうさん)458.1m
【地形図 1/25000】下名川、鶴岡
【天候】曇り時々晴れ
【行程と参考コースタイム】
湯ノ沢岳登山口5:00〜母狩山分岐(九合目)7:35〜 湯ノ沢岳7:55-8:00〜母狩山分岐(九合目)8:11〜三ノ俣山9:00〜母狩山10:10-10:25〜鎧ヶ峯11:10〜金峯山一望台12:00〜 中の宮12:20〜 青龍寺前12:40〜南工業団地バス停13:20着・あさひ交通バス14:19 発=(バス)=下本郷バス停14:41〜湯ノ沢岳登山口15:30
 
【概要】
 朝日連峰の最北端に位置する摩耶山から、さらに湯ノ沢岳や母狩山へと北へ連なる稜線は摩耶連峰と呼ばれ、金峯山を最後に庄内平野へと収斂して終わる。摩耶山から湯ノ沢岳へも登路があれば朝日連峰からの大縦走路も考えられるところだが、残念ながら摩耶山からは北へも南へも登山道はない。このなかで、湯ノ沢岳は3年前の初冬、12月に一度登っているが、そのときに九合目の分岐点で目にしていた、「母狩山まで4時間」という標識がずっと気にかかっていた。その後、金峯山までの縦走路が新たに切り開かれたということを聞き、いつかはこの縦走を実行しようと考えていたものである。マイカーの回収には、路線バスを利用できるということを所属している「東北の山メーリングリスト」で聞いていたので、そのときの記事を参考にしながら、インターネットで手に入れたバス時刻表を持参して今回の山行に臨んだ。

 ガイドブックによれば、母狩山や金峯山の登山適期は5〜6月、または9月〜11月とある。つまり湯ノ沢岳や母狩山、金峯山、いずれも標高1000mに満たない山であり、夏の暑い盛りは避けるべき山域ということなのだろうが、まして今日のような7月最終の日曜日を選んでまで縦走の対象にするべき山ではなかった。とくに最後のピークである金峯山は458mしかないのである。そうはいっても思い立ったときにでもなければ、庄内まで出かけて交通機関を使った縦走などはなかなかできそうもなく、今日は熱射病対策を万全にして、早朝まだ暗いうちに起き出して朝日村に向かった。

 朝日村の落合集落から湯ノ沢沿いの林道を最奥まで進むと湯ノ沢ダムのある終点に着く。ここが湯ノ沢岳への登山口である。砂防ダムからは勢いよく水流が溢れ出しているだけで、辺りはしんと静まりかえり、駐車場には1台も車はなかった。準備を終えて湯ノ沢川に架かる木橋を渡ると、まもなく広々とした休耕田らしきところにでる。ところが3年前とは状況が違っていて、登山道がよくわからずしばらく右往左往した。近くには標識も見あたらないので、いったん左手に進んだものの、ヤブに覆われていて道が途切れているため、今度は反対方向に進んでみた。こちらははっきりとした山道が続いていたのだが、結局、記憶には無い小沢を渡渉してゆく羽目になり、ここまできてようやく道が間違っていることに気づく始末だった。今回は歩いた軌跡を残すためにGPSをザックの雨蓋に入れていたが、こんな時に限ってルートは入っていないので、道案内としては全く役にはたたなかった。私はがっかりしながら元の地点まで引き返し、気を取り直して再び反対側へと向かった。今度はヤブを強引にかき分けてゆくと、「山頂へ」という標識を見つけて、ようやく本来の登山口に取り付くことができたのだが、すでに駐車場を出発してから30分以上も経っていた。結局一番初めに選んだ方向が正解だったのである。ただでさえ貴重な朝の涼しい時間帯を、無駄な歩きをしただけによけい疲れてしまい、私は最初から気が滅入った。

 前日の天気予報では庄内地方は曇り空であった。期待していたとおり、朝から日差しがなくて喜んでいたのだが、雲の切れ間からは青空が時々のぞくときがあり、今日は徐々に暑くなりそうな気配が漂っていた。本格的な登りになると15分程度、風もない樹林帯が続いた。次第に広葉樹が目立つようになる頃から気温の高さに我慢できなくなり、途中で団扇を取り出し、仰ぎながら登った。それでも急坂の登りでは汗が全身から噴き出してしまい、Tシャツは早くも汗でびっしょりとなっていた。湯ノ沢岳の山頂までは一合目、二合目と標識が整備されていて、おおよその目安にはなったが、風がほとんどないために体力的にはきつい登りが続いた。途中には「清滝不動明王」や「御宝前参道」などといった古い標識があって、湯ノ沢岳は昔から信仰の山のようであった。

 五合目を過ぎたところで、前方の斜面をドタドタと大きな音とともに何かの動物が駆け下りていった。熊だろうかと一瞬胸騒ぎがしたが、相手は途中で立ち止まり、こちらをブナ林の間から伺っているようであった。眼鏡を取り出して目を凝らしてみると、その動物はブナの陰に半分隠れながら、赤い顔だけをのぞかせて私の方を見つめていた。動物の正体はカモシカや熊ではなく、どうやら猿のようであった。

 六合目を過ぎると狭いヤセ尾根の岩場が続くようになる。風も出てきて、幾分爽やかな気分になったものの、今度は雲の中に入ったらしく、辺り一帯は深い霧に包まれてしまい、見晴らしは期待したほど良くはなかった。しかし、前回は雪の混じった岩稜歩きで緊張しながら歩いたところも、今日はそれほど気にならないのがせめてもの救いだろうか。左前方には湯ノ沢岳の山頂付近らしい姿が霧の中にうっすらと浮かんでいたが、山頂へと深く切り込んでいるスラブなどはほとんど見えなかった。急斜面を登るとようやく稜線の分岐点である九合目に登りつく。ここから右手に進めば母狩山への縦走路だが、標識はいつのまにか「母狩山まで3時間40分」と前回の標識よりも時間が短くなっていた。私はとりあえず湯ノ沢岳を往復してくることにした。

 登り始めによけいな歩きで時間をとられたせいか、疲れが早くも足にきていて、湯ノ沢岳の山頂へはようやくたどり着いたといった心境であった。当然ながら登山者は見当たらず、三等三角点と標柱があるだけの、誰もいない静かな山頂だった。残念ながら曇り空のために近くの低い山並みしか見えず、月山や朝日連峰は雲に隠れてよくわからなかった。今日の行程はこれからが本番ということもあり、山頂では漬け物やポカリなどで乾いた喉を潤し、早々に九合目の分岐まで戻ることにした。

 母狩山への分岐である九合目までは10分ほどで戻った。ここからは少し下ってしばらく平坦なブナ林が続いた。この付近のブナ林は人が全く入っていないのか、原生林のような瑞々しさには目を見張った。そのしっとりとした佇まいは、陶然とするほどの美しさだった。

 強くなり始めた日差しも、幸いにこのブナの葉に遮られて、しばらく涼しくて心地よい山歩きが続いた。やはり木陰はいいものだなあ、などとあらためて思ったりした。ただ、草が覆い茂っているために、登山道をわからなくしているところもあって、ここはちょっと迷いやすい区間だった。踏跡がはっきりしないところは、赤テープを目安にして強引に進んでゆくと、まもなく明瞭な登山道になった。あいかわらず団扇をあおぎながらだったが、その団扇も草露で濡れてしまい、紙が少しずつはがれてゆく。暑い盛りのこの時期、団扇にはだいぶ助けられたが、終いには団扇の骨組部分だけが残ってしまい役に立たなくなってしまった。ズボンもぐっしょりと濡れてしまったが、草露というよりは昨日まで降り続いた雨のせいなのかもしれなかった。

 やがて遠方に目標物の母狩山が見えてくると、ようやくホッとするようだ。さすがに湯ノ沢岳から母狩山までは距離が予想以上にあって、なかなかたどり着けないもどかしさを感じていた。この辺りは新しく切り開かれた道らしく、細竹や潅木の刈り払われた跡が残っていたが、両側からは長い草丈が伸び放題になっていることもあって、両手で草をかき分けるところも多かった。ようやくピークに登り着いたと思ったところが、母狩山の手前のピークである三ノ俣山とわかって少しがっかりした。ここも湯ノ沢岳と同様に三等三角点と簡単な標識があるだけの山頂であった。

 三ノ俣山からはいったん下って母狩山までは再び登り返さなければならない。たいしたアップダウンではないものの、この頃になると気温がかなり上昇してきただけに、体力が徐々に失われて行く気がした。歩いていると両側からは時々樹林越しに庄内平野が望めるのが、せめてもの慰めになるようだった。

 母狩山には登山口を出発して5時間余りでようやく到着した。山頂はやや広い草地状の平坦地で、ここからは見晴らしもよく、休憩するには最適なような場所であった。母狩山の標高は751mで、湯ノ沢岳付近にかかっていた、厚い雲から抜け出したこともあって、日差しがさらに強くなっていた。とても山頂で休めたものではなく、登山道をそのまま北に進み、日陰の箇所を選んで休憩をとらなければならなかった。山頂からは鳥海山や月山などが見えるはずだったが、残念ながら雲に隠れてしまっている。しかし、遠方は望めなかったものの、下界を走る国道や、鶴岡市や櫛引町らしい市街地などはすっきりと見えているので、今日はこれくらいの眺望で満足しなければならないようであった。

 母狩山の山頂からは、灌木をかき分けながら歩いてきた鬱陶しいほどのこれまでの山道とは一変して、急に広々として歩きやすい道になった。金峯山から母狩山までは以前から多くの登山者やハイカー達に歩かれているのが伺えるようであった。やがて大下りともいえるような急坂が現れると、固定されているロープなどにしがみつくようにしながら下った。それでも粘土のような土質のために、濡れているだけに何回か尻から滑り落ちたりした。鞍部からひと登りすると鎧ケ峰の山頂だった。ここは標識も三角点もない山頂だったが見晴らしは結構良いところだった。鎧ケ峰といった厳めしいような名前からすると、母狩山か金峯山の前衛峰といった意味でもあるのだろうか。

 鎧ケ峰から金峯山との鞍部まで下ってゆくと、ここには湯田川温泉への分岐点がある。別に温泉街などが見えるわけではなかったが、下界がいよいよ近づいている雰囲気だけはわかった。いよいよ縦走路の最後のピークである金峯山が目前に迫っているようだった。金峯山の山頂が近くなると人の声がどこからともなく聞こえてきた。ようやく登り着いた金峯山神社の前で手を合わせていると、ちらほらと2、3人のハイカーが登ってくるのが見えたが、3人ともザックも持たず、観光客がちょっと登ってきたといった軽装である。登山者はそれほど多くはなかった。展望台である金峯山の一望台からは鶴岡の市街地が見渡せた。切り株の丸太の椅子や丸太のベンチなどがあって、ここは家族連れなどで賑わいそうな場所であった。

 金峯山からは青龍寺コースを下ってゆく。参道であるはずの道が、普通の山道のように狭い登路なので意外な思いがした。途中から丸石が積まれた石畳が続くようになるとまもなく中の宮に着いた。いかにも観光地らしい雰囲気に満ちていたが、境内には人の姿は見あたらない。ちょうど昼時間のため、すぐ下の社務所の食堂では大勢の観光客で混み合っているようであった。私は社務所の向かいにある閼伽井の清水で喉を潤す。そして汗を拭きながら、大下りで転んだときの汚れた両腕や衣服についた泥を流した。この清水は冷たくて美味しく、まさしく生き返る思いがするようだった。

 中の宮は予想外に高い地点にあって、下の鳥居まではまるで日光のいろは坂のようなカーブが連続する車道をしばらく下らなければならなかった。もしかしたら予定していた12時台のバスに間に合うかも知れないと、時々走ったり急ぎ足で歩いたりするものの、いくら下っても新たなカーブが次々と現れるので、なかなか平地には着かなかった。無理をして走ったりしたためか、そのうち両膝が少し痛みだしてきてしまい、しかたがないので12時台のバスはあきらめることにした。登り始めの道迷いでロスをした30分が、ここにきて影響が出てきた形だったが、バスを一本ぐらい遅らせても良いのだと思うと、急いていた気持ちが自然と消えていった。

 国道112号線沿いのバス停まではしばらく炎天下の歩きが続いた。後ろを振り返れば金峯山の姿が見えたが、たった今、この山に登ってきたという意識は意外になく、ただ暑い日差しが降り注ぐ舗装路をとぼとぼと歩くだけで精一杯だった。国道に出るとバスの時間までは1時間程の余裕があったため、近くのセブンイレブンで冷え切ったコーラとアイスクリームを買い、コンビニの外で腰を下ろして、コーラを一気に飲み干した。そして、アイスクリームをまるで小学生の子供のようにかぶりつくようにして食べると、ようやく下山してきたのだというような開放感を味わった。頭上からは梅雨が明けたと思わせるような日差しが降り注いでおり、濡れた靴下や登山靴をアスファルトの上に広げて乾かすことにした。不思議と他人の目が気にならなく、恥じも外聞もないような気分だった。たぶん疲れはててしまい、よけいなことを考えるのも億劫になっていたのかも知れなかった。素足になってザックを枕に横になると心が安らいだ。ここでの休憩が今回の行程で一番の至福の時間のような気がした。

 定刻どおりにやってきた、路線バスには一人も乗客はなく、私が降りるまで新たに乗ってくる者もいなかった。朝日村の下本郷バス停で降車し、そこからは2kmほどの歩きが待っていたが、懸案にしていた縦走路を歩き通せた達成感で気が高ぶっていたのか、それほどつらい気分はなかった。湯ノ沢岳の登山口までは、凍らせておいたペットボトルがちょうどよく解け出していて、それをラッパ飲みしながら歩いた。足は字の如く棒のような状態で、感覚が麻痺していた。暑い日盛りの中、疲労感が全身を襲っていたが、一方では久しぶりの充実感に私は満たされていた。下山後にGPSの軌跡を確認してみると、迷ったところも含めて、全行程の歩行距離が約26kmだったことがわかった。体調が不調気味の私にとっては、最近にはなく長い距離を歩き続けた暑い一日が終わった。



今回のコース(歩きの部分のみ)※縮尺約1/120,000


湯ノ沢岳山頂


縦走路の美しいブナの原生林


三ノ俣山山頂


三ノ俣付近から母狩山を望む


母狩山から鎧ヶ峯と金峯山


金峯山神社(奥社)


金峯山一望台


一望台から鶴岡市街地を見下ろす


南工業団地のバス停


湯ノ沢岳登山口に戻る



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