山 行 記 録

【平成18年1月29日(日)/蔵王連峰 坊平高原〜熊野岳〜蔵王ダム】



蔵王ダムから仰ぐ雁戸山


【メンバー】5名 西川山岳会(山中、安達、蒲生)+小林、斎藤
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】蔵王連峰
【山名と標高】熊野岳1,841m 、地蔵岳1,736m
【天候】晴れ
【行程と参考コースタイム】
自宅5:45=山形蔵王IC7:00(集合)
ライザスキー場第2リフト終点9:00〜お田ノ神避難小屋9:30〜熊野岳10:50-11:30〜地蔵岳直下11:35〜ロボット小屋(雨量計)(1045m)13:30〜鍋倉不動13:37〜林道14:10〜蔵王ダム14:50〜駐車地点15:10(412m)
  
【概要】
蔵王連峰は、山形県と宮城県の県境、奥羽山脈の南部に位置する連峰で、主峰の熊野岳は山形県側にある。また『日本百名山』(深田久弥著)においては、蔵王連峰を称して蔵王山としても紹介されている。この蔵王連峰は山形・宮城両県側から多数の登山口があり、さらに周辺には多くのスキー場があることから、冬でも多くのスキーヤーや冬山登山者、また樹氷を目的とした観光客の人たちで賑わっている。またなだらかな山並みが多いことから、この蔵王連峰では昔からスキーによる様々なツアーコースが開拓されていて、山スキー愛好者にはよく利用されている山域でもある。しかし、ゴンドラやスキーリフトを利用して手軽に熊野岳や刈田岳の山頂に立てる反面、毎年のように遭難死亡事故が絶えないのも事実である。これは山形・福島県境の吾妻連峰にもいえることである。

今回は坊平高原のライザスキー場を利用して熊野岳へ登り、山頂からは地蔵岳をめざして、蔵王ダムへと下るスキーツアーだ。熊野岳から蔵王温泉スキー場へと下る山越え(あるいはその逆コース)もよく使われるツアーコースだが、この蔵王ダムコースは途中にツアー標識もなく、地形が入り組んでいることから、地形図を読む技術や的確なルートファインデングが必要となるために、蔵王温泉ルートに比較すれば、より上級者向けのツアーコースとなる。

今日は全国的に好天の天気予報が出されていて、東北地方もすっぽりと高気圧に覆われる予定である。山形側から登る場合には特にそうだが、冬の蔵王は晴れるのがまず珍しい方で、いくら下界が快晴であっても刈田岳や熊野岳が好天に恵まれることはめったに見られない山域でもある。そういう意味で天候の心配がいらないというのは久しぶりであった。いつも熊野越えをめざしながら、毎年のように蔵王温泉スキー場からの中途半端なツアーが続いていたので、今日はようやく本来の熊野岳の山越えツアーができそうである。今回は西川山岳会から3名、それに郡山の友人である小林さん達2人組が加わり合計5名となった。このところ単独行が続いていた私にとっては、久しぶりにパーティーでのツアーである。

山形蔵王インターで合流後、車をデポするために一路蔵王ダムに向かった。ところが宝沢集落を過ぎると不動沢林道入口で通行止めのため、先には進めなくなっていた。どうやら雪崩の危険のための通行止めらしく、ダムまではまだ3Kmもあるが、今日はここが駐車地点となるようであった。とはいっても、林道には雪がしっかりと残っているので、蔵王ダムからは滑ってこられるから特に問題というほどではない。ツアーとしてはかえって下りの行程が長くなるので、むしろ喜ぶべき通行止めなのかもしれなかった。

ライザスキー場には8時半前に到着した。何かの大会があるのか、スキー場はすでに多くのスキーヤーでにぎわっていて、駐車場もすでにかなりの台数で溢れていた。準備をしながら周りをみているとザックを背負った人も多数いるようであった。下界では春のような日差しが降り注ぎ、駐車場からも中丸山付近はすっきりと見えてはいたが、熊野岳がまだ厚い雲に覆われているのが少し気になるくらいか。しかし時間と共に晴れるのは間違いはなさそうで、予報を信じてリフト乗り場へと向かった。

第2リフトの乗り場で登山計画書を提出し、リフトトップからはシールを貼って、さっそく馬ノ背をめざして歩き出した。コースにはたくさんのトレースが乱れていて、久しぶりの好天に誘われたのか、早くも山スキーやスノーシューやカンジキを使った多くの登山者が登っているようであった。蔵王ではいつもそうなのだが、風が強いこともあり、吾妻連峰のように稜線に出るまでのラッセルがないのがありがたい。きょうもほとんど足への負担もなくどこでも登って行けるから、楽しいばかりのシール登行がしばらく続いた。途中、馬ノ背直下の廃線リフト小屋で小休止をとるために立ち寄ると、小国山岳会の吉田さんと出会った。サングラスをかけていることもあって、初めは誰だかよくわからなかったが、山中さんがすぐに気付き、しばらく立ち話をする。吉田さんとは飯豊連峰、梅花皮小屋の管理人小屋でご馳走になって以来だから、私にとっては久しぶりの出会いでもあった。

廃線リフト小屋から馬ノ背まではやや急坂の登りが続く。いつもならば強風に体が煽られるところだが、異常なくらいに風も弱く穏やかで、山中さんと私はアウターを着ることもなく、山シャツ一枚で登って行く。馬ノ背付近ではまだ雲が晴れず、周囲もガスに包まれていたが、熊野岳直下までくると、天候が急に晴れだしてくる。振り返ると雲海の上にでたのか刈田岳が雲の中に見え隠れしていて、厳冬期の自然が織りなすこの光景にはただただ感激させられるばかりだった。まもなく雲ひとつない快晴の青空が広がり、目の前には熊野岳の大きな山塊が出現した。こんなチャンスはそうはないので写真を撮ろうとしたらバッテリーが動かずシャッターが切れなくて私は焦った。まだ10枚ぐらいしか撮っていないのに、アウターを羽織っていなかったせいもあるのだろうが、ポケットに温めていた予備のバッテリーに取り替えてもカメラは動かなかった。がっかりするばかりだったが、ここの風景は他のメンバーの撮影に期待をすることにして、一路、避難小屋へと直登する。結局、山中さんと私の二人は、避難小屋までアウターを羽織ることもなく登り切ってしまった。冬の蔵王でアウターも着ずに、馬ノ背を歩いたり熊野岳に登ったのは初めてであった。気温もマイナス2度くらいしかなく、常には烈風で体ごと吹っ飛ばされるほどの山頂も、今日は信じられないくらいの穏やかさに包まれていた。今日はまれにみる好天に恵まれたおかげで、避難小屋へはリフトトップから2時間弱で到着した。みんなの体調にも問題はなく、順調なペースで山頂へ到着できたことを考えると、今日のツアーは半分以上は成就したのも同然のような心境であった。

山頂では気の済むまで熊野岳からの撮影に時間を費やした。私はカメラからバッテリーを取り出し、脇の下でしばらく温めると数枚だけ撮影することができたので、とりあえずホッとした気分。避難小屋への到着直後は飯豊連峰も見えていたのだが、まもなくガスに隠れてしまい、貴重な撮影のチャンスを逃してしまったことはちょっと残念であった。しかし、北蔵王方面を俯瞰すると、天候が崩れる心配はは全くないだろうといってもよく、これから向かうルート上は晴れ渡っていて、雁戸山はもちろんのこと、縦走路上の八方平避難小屋もはっきりと見えるほどであった。避難小屋では早めの昼食を兼ねて大休止をとることにした。小屋の中に入ると内部の暗さにすばらく何も見えなかったが、目が慣れてくると、さっそくみんなのザックからは缶ビールが出てきて、次々と回ってくる。汗をかいた後だけあって、そのビールの一口には、下界では決して味わうことのできない至福のような時間を感じた。

熊野岳避難小屋からはシールをはずしていよいよ滑降の開始となる。私のGPSは今回も液晶に不具合が発生して、相変わらず表示はされなかった。こうなると文明の利器もただのがらくた同然のようなものだが、軌跡だけでも残ればと思って、うまく取れるかどうかはわからなかったが、電源だけは入れておくことにした。しかし、今日の天候にあっては視界がはっきりしているのでGPSなど全く不要とさえ思えるほどで、それに他のメンバーもGPSを持参している者がいるので、ルートの心配はいささかもなかった。

山頂からは夏道の北側に沿って滑って行き、途中からトラバース気味に地蔵岳に向かうと、目前には熊野岳北面のパウダー斜面が現れる。前方にはノントレースの手つかずの輝くような斜面が広がっていて、この光景を眺めていた私たちは、もう全員が我慢しきれなくなり、それぞれ勝手気ままに斜面へ飛び込む始末であった。雪質は適度な斜度と、北斜面らしい柔らかな深雪で、快適の一言である。たまに転けたりするのも天候が良いだけに怪我さえしなければ愉快なアクシデントとなる。まもなく樹林帯に入ると少し歩きがでてくるものの、春のような日差しのもとではスノーハイキングのようであった。私はいつも地蔵岳から沢沿いのコースばかりをたどっていたが、今日は尾根伝いのルートを下るために、コース案内は山中さんに一任していた。ほかのメンバーは山中さんの後を追いながら、滑ったり登ったり歩いたりと、いつもの様々なスキーツアーらしい行動がしばらく続いた。ツアーコースと入ってもこの蔵王ダムコースは地形図には現れない支尾根や小沢がところどころに出てくるので、ルートファインディングが少し難しいところがある。基本的には前方にみえる雁戸山をめざせばよいのだが、このツアーコースで、もうひとつの魅力は雨量計までの滑降である。その雨量計への急坂のトップにでるために、ああだこうだとルートをところどころで確認しながら、しばらくトラバースや小さな登りなどを続けてゆく。ようやく目標地点であるブナ林の疎林帯に出ると待ちに待った最後の大休止となった。ここではまた缶ビールがあちらこちらから回ってきて、なんともいえない楽しい冬山のひとときを過ごした。

雨量計へと向かう斜面は今までの密林の平坦な地形とは一変する。ブナの疎林が広がっているこの適度な斜度と深雪は、快適なツリーランが楽しめるところで、各自、自分の技量に応じて、思い思いにシュプールを刻んでゆく。ブナをポールに見立てて下るこの楽しさはテレマークスキーの一番の醍醐味といえるものだろうか。ここでの滑降は予想を裏切られることもなく、深雪のパウダーをみんなで楽しみながら下った。この蔵王ダムツアーコースはこの斜面があってこそのものであることをつくづくと思うばかりであった。私は結構疲れていたものの、この上ない充足感に満たされていた。一気に斜面を下ってゆくと次第に斜度が緩み、前方にはやがて雨量計がみえてくる。ここはコース上で最良の休憩ポイントなのだが、休んだ直後ということもあって、今回はこのまま雨量計を通過した。雨量計からは左手の葉ノ木沢沿いに尾根を下ってゆくと鍋倉不動だ。冬の鍋倉不動はひっそりと杉林の中に佇んでいて、ただ眺めているだけで自然と心が落ちついてくるようであった。鍋倉不動からはまもなく急斜面が現れるところだが、ここは滑降を楽しむといった箇所ではなく、ただ安全を最優先にしてキックターン、横滑りなどで凌ぎながら慎重に下るだけであった。

途中から右手の尾根に乗り換えてトラバース気味に夏道に沿ってゆくと、気温が下がってきたためか、スキーがよく走った。昨年はあまりの気温の上昇に雪崩の危険を感じた急斜面のトラバースも、今回は特にその不安は感じられない。この頃になると足の疲れもかなりでてくるところで、私はところどころでつまらない転倒を繰り返した。いつもとは体調が違うのに、少しずつ不安を感じていたこともあり、私はみんなの最後尾をついていった。雨量計から蔵王ダムまでは、歩けば相当に長い区間もスキーだといくらもかからない。東北の冬山に入るといつも思うのだが、この原始的な山道具としてのスキーの機動力のありがたさを、今回もつくづくと思うばかりであった。

林道に飛び出すと今日のツアーもエンディングが近い。いつもはシールを貼り直し、ダム手前のトンネルまではスキーでゆくのだが、今回は各自それぞれにスキーをロープで引いたり、ザックに担いだりしながら林道を坪足でしばらく歩いてゆく。私は予想外に疲れ果てていたのだろうか。登山口にストックを1本、置き忘れたのに途中で気付いて引き返し、トンネル手前までくると今度は引っ張っていたスキーを途中で置き忘れてきたのに気付いて、再び元の道を引き返したりした。こんなポカは初めてであったが、みんなを待たせたりしてしまい、気分がかなり滅入ってしまった。おかげで私は林道を二往復したようなものになってしまったが、やはり私の体調は本調子ではないのかも知れなかった。

蔵王ダムから林道を振り返ると白く輝く雁戸山が見えた。管理所前では最後にみんなで今日の思い出を残しておこうと記念写真を撮り合った。まだまだ日没には早い時間帯だったが、この山奥にあってはそんな下界の時間の感覚ではいられない。陽が傾きはじめれば薄暗くなるのはたちまちで、周りを見渡すと夕暮れが迫っているようであった。

蔵王ダムの管理所からは、普通ならばここでデポしておいた車に乗ってライザスキー場に車の回収に向かうところだが、今回は不動沢林道の入口までまだ先が残っている。しかし、約3kmの林道も積雪のおかげで歩く必要もなく、ここは最後の滑降とばかりに、カリカリに氷結した林道をスピードに乗って滑って行く。3kmといってもスキーで下ればあっと言う間で、快適に飛ばしてゆくと駐車地点はまもなくであった。みんなとはここで解散となり、山中氏と安達氏は車回収のために坊平スキー場に向かい、私は小林さん達を高速のインターまで送り、6時間に及ぶ今日の長いスキーツアーが終わった。


熊野岳を背景に(山中氏撮影)


新雪の尾根歩き


熊野岳避難小屋にて筆者(山中氏撮影)
後方は刈田岳


蔵王ダムにて(小林氏のデジカメにて撮影)


今回のコース


高低(行程)図



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