
山形での所用を済ませて葉山市民荘に到着したときには11時近くになっていた。今日は朝から快晴の天候が広がっていたが、そこには何人かの観光客がいるだけで、今日の登山者は誰もいないようであった。周辺のブナはすでに葉をほとんど落としてしまい、すでに初冬の雰囲気が漂っている。林道終点の登山口を歩き出すとすぐに落ち葉の山道となる。落ち葉の海を漕ぐようにしながら歩くのは気持ちがよく、ふかふかとした褐色の落ち葉はまるで良質のクッションのようでもあった。
急坂を少し登ると路傍に「こいと」の標識があり、それには標高1050m、奥ノ院まで4.1kmとあった。急坂を少し登ると「見返り坂」の標柱が現れ、同じように奥ノ院までの距離と標高が表示されていた。この標識は「一服台」「尊仏平」「ドウタン通り」と、お花畑まで続き、山頂までのちょうどよい区切りとなっている。「見返り坂」からは美しいブナ林が続いた。「一服台」の隣にはもう一本の標柱が立ち、そこには「立岩を経て市民荘に至る」とあった。しかしそのコースはあまり歩かれていないのか背丈ほどの笹が登山道に被さっていた。木々の間からは爽やかな秋空がのぞき、秋晴れの山歩きは快適であった。「尊仏平」は平坦なブナ林が広がっているところで、4月、ほとんど進まないスキーの下りに閉口したところだ。「尊仏平」を過ぎると再び急坂となり、まもなく左手からは小僧森のピークが見えてくる。降り注ぐ陽射しは温かく、眩しい日溜まりを見ているだけで心が安らいだ。
風は冷たかったがそれ以上に陽射しが強いので爽やかな山道が続いた。お花畑は岩野コースやお田沼、大円院への分岐点で、9年前に歩いた時も通っているはずだったが、ほとんど記憶には残っていない。お花畑からは小僧森が大きく、大僧森の右肩からようやく葉山や奥ノ院がみえた。お花畑の湿地帯には設置されたばかりの木道があり、そこから小僧森へはひと登りだった。小僧森のピークからは登りと同じ様な高度差を下る。その先も大僧森、大つぼ石、葉山とアップダウンが続くので結構きついコースだ。9年前の雨の中、この付近をただひたすら歩いた記憶が少しずつ蘇ってきた。大僧森のピークを越えるとアップダウンは比較的小さくなり、なだらかな稜線歩きとなった。大つぼ石は展望台のようなピークで、正面には月山がうっすらと見えた。
葉山山頂には一等三角点が設置されている。しかし、潅木が大きく展望は今ひとつで、すぐに奥ノ院へ向かった。山頂から少し下ると湿地帯が広がるなだらかな地形となる。高みに登り返すと山ノ内コースとの分岐の標柱が立ち、左手には赤い鳥居が見えた。奥ノ院に立つ葉山神社は目前であった。山頂には誰もいないはずと思っていたら、神社の裏側には昼食中の登山者が4名ほどいて驚いた。聞いてみるとみんな十部一峠から登ってきた人たちだった。水も飲まずに登山口からは一息で奥ノ院まできたが、喉がカラカラに乾いていた。コーラを一気に飲むとあまりのうまさに目眩がした。山頂からは淡く霞んだ月山が見えた。小春日和の山頂は穏やかだった。朝日連峰や飯豊連峰は天候が良すぎるのか、陽射しが眩しくてほとんど見えなかった。
15分ほどの休憩を終えると下山にとりかかる。下りとはいっても小僧森までは登りと同じ様なアップダウンがあるので結構きついところだ。登りで溜まっていた疲れが徐々に出てくるようで、最後の小僧森への登り返しでは両足が極端に重くなった。小僧森を過ぎれば樹林帯となり、展望はほとんどなくなってしまう。そう思うと急いで下る気持ちにはなれず、お花畑の木道で腰をおろした。月山は相変わらずぼんやりとしか見えなかった。秋の日は短く、お花畑を過ぎると午後の陽射しは急速に傾き始めていた。しかし、分岐の標柱から右手に折れると、強い西日が正面から当たるようになる。私は降り積もった落ち葉を蹴散らしながら、再び明るさを取り戻した気持ちの良い林間をのんびりと下った。