【平成14年8月24日(土)〜25日(日)/中央アルプス 木曽駒ガ岳〜空木岳】
檜尾岳避難小屋付近から望む空木岳(2日目の朝)
この天候にはさすがにがっかりだったが、晴れそうもない天候をただ待っている訳にも行かず、上下の雨具でしっかりと身支度を整えて外に出た。晴れればキャンプのほうが絶対に楽しいのでテントもザックに入れてはきたものの、幕営などとてもできそうにもない悪天候である。避難小屋泊りも視野にいれながら視界のない登山道を歩いた。八丁坂を登るとすぐに乗越浄土でまもなく宝剣山荘に着いた。小屋の中を覗いてみるとみんな気落ちした表情で休憩中であった。今日の山は早々とあきらめて早速今日の宿泊を申し込んでいるものもいた。
休憩もそこそこに木曽駒ガ岳までを往復することにした。天候さえ良ければザックはデポする予定だったが、濡れているとザックの入れ替えもめんどうなのでそのまま重荷を背負ったまま小屋を出た。稜線を吹く強い風に乗って雨がビシビシと全身に当たる。雨風に加えてガスも濃いので視界はほとんどなかった。早くも山頂から下ってくる人も多く、縦走を予定していた人達もあきらめてロープウエイ乗り場に急いでいる様子だった。木曽駒ガ岳の山頂では多くの人達が岩陰などに身を寄せながら休憩している。同じ様な弁当を広げている人も多く、どうやらツアーの参加者のようであった。私は山頂神社に手を合わせて今回の縦走の安全と天候の回復を祈った。山頂周辺の写真も撮ってはみたものの写っているかどうかはわからなかった。岩陰で風を避けながら菓子パンを食べてつかのまの休憩をとった。せっかくのアルプスの縦走というのに何の展望もないのが悲しかった。
宝剣山荘からは縦走路に向かった。すぐに宝剣岳への登りで、ここからはクサリが連続する岩稜帯になった。視界が無い上に岩は濡れているので細心の注意を払いながら進んだ。いたるところにペンキの矢印があるので迷う心配はなさそうだったが、他に縦走するような人は見あたらず、こんなところで事故を起こしても誰にも見つけてもらえそうもないのでいつもより少し緊張するところだ。極楽平のなだらかな稜線でホッとしたのもつかの間で、すぐにまた濁沢大峰への岩場の歩きとなった。風と雨とガスの荒れ模様がずっと続いた。この日、宝剣山荘からの縦走路では檜尾岳への登りの途中でわずかに3人の登山者に出会っただけであった。
檜尾岳山頂から避難小屋までは約10分の下りであった。途中でテン場らしき広場もあったが、もちろんテントを張る気持ちはなくなっていた。全身ビショぬれの上に雨水が登山靴の中まで浸透してきてしまい、小屋の中で早く濡れたものを乾かしたかった。小屋はカマボコ型のきれいな木造の小屋であった。もしかしたら檜尾避難小屋には悪天候のため避難している人が多数いるのでは?とも考えながらドアを開けてみたものの、小屋の中には誰もいなかった。この小屋には水場はない。しかし小屋の前に水場まで5分という標識が立ててあり、半信半疑ながら落ちつく前にペットボトルを持って出かけてみた。すると確かに水場らしきところはあったものの、それは沢に下る途中の踏跡とも沢とも判別がつかないところに短いホースを置いただけのもので、とても水場と呼べる代物ではなかった。唖然とするばかりだったが、それでもほとんどチョロチョロと流れる水雫をペットボトルに溜めた。こんな水でも煮沸すれば問題はなく、無いよりははるかにましだった。
小屋に戻り、早速濡れたものを乾かしながら遅い昼食の準備をした。寒くてビールを飲む気がせず、とりあえず焼きソバを作って食べた。気温が低いためだろうか。濡れて冷えた体はなかなか温まらず震えが止まらないのでシュラフに入って横になった。うつらうつらとしていた。今日は間違いなく一人切りの小屋だろうと思っていたら4時半過ぎになって二人連れが小屋に入ってきたのでびっくりした。それは名古屋から来たご夫婦で、何回もこの避難小屋を利用している人達らしかった。二人は正午頃千畳敷を出発し、意外にも雨には当たらなかったという。視界の悪さは変わりはないもののその頃は雨も上がっていたらしく、全身ビショぬれになった私はその話を聞いてがっかりした。夕食を楽しみに食材も多めに持ってきていたが、自宅から持ってきた漬け物とビールで何となく腹が一杯になってしまい、少し熱があるような気がしたので風邪薬だけをのんで早めに眠った。夜中に起きて窓をそっと明けてみるとガスが切れて月が煌々と照っており、明日は晴れそうな予感にホッとしながらまたシュラフにもぐりこんだ。
翌日は4時に起床した。ヘッデンをつけて朝食の準備をする。カレーとアルファー米、そして飲み物は味噌汁とコーヒーにした。二人はまだ眠っているので音を立てないように注意した。少し薄明るくなった頃を見計らい外にでてみると、ガスはすっかりと晴れてほとんどの山々が見渡せた。檜尾避難小屋が朝日を浴びて輝いている。今日は間違いなく晴れそうであった。
6時前には小屋を出る。風もなくおだやかで、小鳥のさえずりが聞こえるだけの静かな檜尾岳山頂だった。昨日の縦走路を振り返ると波打つ山並みの延長線上に小さなコブのような宝剣岳が見えた。その後ろには木曽駒ガ岳がうっすらと見えているが、もうはるか遠くに離れてしまっている。これから向かう縦走路の先に大きくそびえ立つ空木岳もまだまだ遠く、その間にはいくつものピークが続いていた。この縦走路は地図でちょっと眺めた程度ではわからなかったが、こうして実際に稜線に立ってみると想像以上の距離を感じた。しかし朝の風がすがすがしい中を歩くのは快適そのもので、昨日の悪天候が信じられないほどの快晴の空が広がっているのだからうれしい。昨日の分も展望を楽しむつもりでのんびりと歩く。振り返ると朝日を浴びたピークが美しく、時々立ち止まってはカメラのシャッターを押した。東川岳まで来ると空木岳はいつのまにか異様な大きさにまで迫っている。宝剣岳は上昇し始めたガスに少しずつ覆われはじめていた。
東川岳からは空木岳との鞍部まで大きく下るので登り返しがきつそうだった。高度計によると約170m下って空木岳までは360mほど登らなければならないようである。鞍部には木曽殿山荘が建ち、ここで空木岳から下ってきた今日初めての登山者に出会った。空木岳への登りは勾配もあってかなりきついもので、かなり登ったと思っても東川岳までの標高をまだ取り戻してはいないと知るとがっかりした。山頂が近くなると再びクサリの岩場が現れ、手に渾身の力を込めて体を引き上げた。花崗岩の大きな岩と白砂が目立つ空木岳山頂が近づいていた。
ようやく到着した空木岳山頂には今日池山尾根から登ってきたという登山者が4人ほどおり、写真をお互いに撮りあったりしている。山頂からは文字どおり大展望が広がり、昨日木曽駒ガ岳での展望が得られなかっただけに感激もひとしおである。延々と歩いてきた千畳敷からの長い縦走路も振り返れば感無量の思いがあったが、山頂から続く南駒ヶ岳の眺めも素晴らしく見飽きることはなかった。明日登る予定をしている恵那山はどこだろうと地図で確認をすると、南駒ヶ岳の少し右手に大きく横たわる山がそうであった。
山頂からは池山尾根を下る。すぐに駒峰ヒュッテがありここでも登山者が休憩中だった。小屋には大きな材木が積み重ねられており、大工さんが作業中でどうやら小屋は近々改築か増築されるようである。小屋を後にすると左手に今までの縦走路を眺めながらの下りがしばらく続く。そして空木岳避難小屋への合流点からは樹林帯の下りとなり、すばらしい大展望はここで終わりになった。そこからは途中、小地獄、大地獄と呼ばれる鉄の鎖場やハシゴ場を通過しながら一本道の登山道を延々と下った。下るに従って気温も上がり始め汗が噴き出していた。そしてうだるような暑さの中、駒ケ池の駐車場に戻った。日曜日という事もあってかマイカーや大型バスがひっきりなしに出入りし、駐車場周辺は喧噪を極めていた。
朝日を浴びる檜尾避難小屋
早朝の縦走路
右奥の小さなコブが宝剣岳
その左奥の木曽駒ガ岳はもうはるかに遠い
空木岳と東川岳(中央のピーク)の鞍部に建つ木曽殿山荘
空木岳山頂で撮影してもらう
昨日の嵐が信じられないほど晴れ渡った
空木岳からは南駒ヶ岳(右奥)〜越百山へと縦走路が続いている
南駒ヶ岳往復には4時間20分を要する