山 行 記 録

【平成13年11月11日(日)/朝日連峰 上田沢から摩耶山】



鎗ガ峰と鉾ガ峰の鋭鋒(摩耶山の山頂から)
左奥は以東岳



【メンバー】単独
【山行形態】冬山装備、日帰り
【山域】朝日連峰
【山名と標高】摩耶山1,020m
【天候】晴れ
【温泉】朝日村 かたくり温泉「ぼんぼ」300円
【行程と参考コースタイム】
自宅615=朝日村上田沢登山口820(112km)
上田沢登山口840〜1050摩耶山(昼食後、鎗ガ峰を往復する)1150発〜上田沢登山口1310

【概要】
朝日連峰の北端の名峰、以東岳の北西に位置する摩耶山の標高はたった1020mほどしかない。しかし実際に登ってみると、その標高からは想像できないような峻険な尾根と高度感には誰もが圧倒されることだろう。たおやかな起伏が続く朝日連峰の一角とはとても思えない山で、南端の異端児が祝瓶山なら、北端のそれはさしずめ摩耶山といったところだろうか。摩耶山に登るには朝日村側から上田沢口、そして温海町からは越沢口と関川口の3箇所があるが、特に上田沢口から登るルートはやせ尾根の急登が続き、鎖場ありハシゴ場ありで一番険しいコースだという。登るならこのルートだろうと、私は以前から機会を伺っていたもので、久しぶりに朝日村に向かうことにした。今日は移動性高気圧に覆われるとあって、今の時期としてはめずらしく天候の心配がないのもうれしいところである。

上田沢の集落から倉沢林道を進み、摩耶沢に架かる橋を渡ると右手に摩耶山登山口の標識が立っている。案内板と並んで登山者カードを投函できるポストもある。周辺には車が数台駐車できるようになっているのだが、車は1台も見あたらなかった。11月も中旬では時期的には遅いとはいえ、一人も登山者がいないとは少し寂しい雰囲気がする。

朝方はかなり冷え込んだことから冬用の下着を着て出発した。カラマツ林の中に続く平坦な道を進み、尾根に取り付くとすぐに急登が始まった。結構、勾配はきついので体はすぐに温まり、背中や額からは汗が流れる。暑いので途中からウールのシャツを脱ぎ、下着1枚になった。登山道はクサリ場が現れる頃からますます急になる。「慶月坂」と書かれた看板のあるところから更に登るとアルミのハシゴがかたわらに目に付いた。どうやら冬場を前にしてはずされてしまったようである。このアルミのハシゴはその後も4ヶ所ほどで外され、道の傍らに片づけられていた。急な斜面には固定された鉄バシゴやクサリが設置されているので特に危ないという感じはない。しかしハシゴが外された場所なのか、なにも手がかりのない滑りやすい急斜面の岩場もあって、そこは慎重に登った。

道はだんだんとヤセ尾根となり険しさを増していった。狭い岩場の両側がスッパリと切れ落ちているので慎重に登る。このあたりは登りではそれほどではないものの、下りではかなり慎重に通過しなければならないだろう。ちょっと足を踏み外せばまちがいなく滑落するところである。長いクサリ場の後、鉄バシゴが3基連続する垂直に近い岩場がある。この鉄バシゴはクサリで吊されており、完全に固定された状態ではないために、少し揺れるので緊張した。歩いていると尾根の途中に花が供えられているのに気が付いた。花は竹の筒に生けられており、筒には石巻山岳会と書かれている。最近遭難した人でもいてその山の仲間が手向けたものだろうか。

コースは途中で、御宝コース及びソリクラコースと書かれた標識から摩耶沢に下る分岐が2ヶ所ほどあるが、私はいずれもそのまま尾根を直進する中道コースをとった。正面には摩耶山の東面の大岩壁が山頂までそそり立ち、左手には鋭い山容の鎗ガ峰が聳えている。中央は岩壁に一直線に食い込む摩耶沢である。大きな岩場のトラバースを通過し、さらに岩尾根を登り小さな鞍部に出ると、今度は右手の摩耶沢に下りて行く。ここは摩耶沢の源頭部らしく、そこからは水の枯れた急な沢登りになった。大きな石伝いに正面の鎗ガ峰と摩耶山の鞍部をめざして登り続ける。振り返れば快晴の空に新雪を抱いた月山が近くに聳えていた。

ようやく摩耶山と鎗ガ峰との鞍部に到着する。左には鎗ガ峰が聳え、登るにはかなりの急斜面のようだが、その頂きへは帰りに登ることにしてとりあえず摩耶山の山頂をめざす。鞍部からの道は危険な箇所もなく一安心だったが、途中で関川口への分岐があり、更に登ると再びヤセ尾根である。その細長いヤセ尾根の途上に摩耶山の山頂があった。狭い尾根の両側が壁のような急斜面で、特に東側は垂直の大岩壁となっているので、ちょうど朝日村と温海町との間に衝立を立てたようなものである。その高度感と目前の鎗ガ峰、鉾ガ峰の異様な岩峰には驚くばかりだった。

狭い山頂は大勢の登山者で賑わっていて、ザックを下ろす場所もなかった。およそ15、6人ぐらいの団体はみんな関川コースを登ってきた人達で、聞いてみると温海町からのコースはすでにハシゴが外されており今は登れないらしかった。摩耶山の山頂には標識と大きな1等三角点が立つ。木々は葉をすべて落としているので視界を遮るものは何もなかった。360度の展望が広がる素晴らしい山頂である。鳥海山はあいにく雲に隠れて見えなかったが、上田沢の集落の上に見える月山は予想以上に大きく聳えている。そして鎗ガ峰、鉾ガ峰の左奥には以東岳が白く輝いている。反対側には日本海が至近距離にあり、その奥には淡島が海に浮かぶ。まさに1000メートル程度の山からの眺望とは思えないほどの景色が広がっていた。

山頂は団体に占領されているので私は少し先で休むことにした。尾根上はどこも見晴らしがよいので展望の良さには変わりがない。私は時間は早かったが、お湯を沸かして昼食の準備を始めた。ラーメンを食べながら眺めていると、鎗ガ峰のピークに人が立っているのが見えた。団体の中の一人が登っていったようで、登山者はそのするどい岩峰の頂きに立ち、摩耶山の山頂とお互いに声を掛け合っているのが聞こえた。

私は食後、ザックを摩耶山との鞍部に置き、鎗ガ峰の山頂まで登ってみることにした。登山道は予想通りかなりの急斜面で、滑りやすい所もあって周囲の潅木につかまりながら登った。ほどなく着いたこの鎗ガ峰のピークから見る摩耶山は、東面の岩壁がすぐ真正面で、その急峻さにはあらためて目をみはった。

今日は朝から小春日和といえるような穏やかな陽射しが降り注いでいた。鳥海山、月山、以東岳と周りの高い山はみな冠雪して、すでに厳しい冬山の領域に入っているのに、今日のこの好天はまさに僥倖ともいえるものである。私はこんな天候は今年はもう望めないかも知れないと思いながら、この摩耶山からの光景を目に焼き付けておこうと、鎗ガ峰のピークに腰を下ろしてしばらく眺めていた。



1等三角点のある摩耶山の山頂