【平成13年10月26日(金)/二荒山神社から男体山】
金精峠付近からの男体山
二荒山神社前の駐車場はまだ朝早いためか意外と空いている。平日とはいえ紅葉シーズンにしては拍子抜けするほどの静けさだ。二荒山神社の境内も人影は見あたらずひっそりとしている。古くからの信仰の山としても有名なこの男体山は、山に登るのに入山料を払わなければないらないというめずらしい山でもある。ところが登山口の正門には、男体山は昨日で閉山した旨の張り紙が張ってあって門は固く閉じられ、そのまま先には進めなくなっていた。どおりで今日は境内も静かなわけである。登山証明書も兼ねるという入山料の領収書は、私は興味もないのでこの予想していなかった「閉山」はかえってありがたいばかりである。ヤブを漕いで山門の奥に入るとまもなく石の鳥居の立つ一合目に出た。それはその後も2合目、3合目と続き、結構登っているときの目安になった。道は雑木林が密集する樹林帯を登ってゆく。登山口の標高はおよそ1270mで、山頂までの1200mあまりを一気に登って行くようだった。途中3合目から4合目にかけての林道を除けば、ほとんど登りいっそうの道が続き、勾配はだんだんと急になっていった。
中禅寺湖周辺は陽も差して青空が広がっていたのだが、登るにつれて濃い霧に包まれてきていた。6合目からは大きな石がゴロゴロする道に変わる。そして7合目の小屋で休んでいると、その大きな石を飛び跳ねるように軽快な足取りで一人の登山者が下りてきた。今日は他には誰も登っている人が見あたらず、なんとなく心細い思いをしていただけに人に出会えて少し安心した。閉山したとはいえ登る人はやはり他にもいるものである。聞くと山頂には他にも数人いるとのこと。しかし深い霧のために全然視界がなかったとがっかりしながら下っていった。8合目を過ぎると道は褐色の砂礫地を歩くようになった。付近は森林限界を超えているので潅木もまばらである。その樹木には氷が張り付いていていかにも初冬の荒涼とした雰囲気が漂っている。たぶん夜は氷点下まで気温が下がるのだろう。山頂が近くなるにつれて冷え込みはますます厳しくなり、いつ雪が降ってもおかしくはない天候になってきていた。
山頂には二荒山神社の奥社が建っていた。右手奥に進むと鋭い太刀が立つ大岩があり、ここには三角点もあった。この先は志津乗越に続いているようである。中禅寺湖側に比べると志津乗越付近は割合にガスが晴れており、青空も垣間見える。地図をみると正面に見える山は大真名子山、そして左に聳えるのが太郎山らしかった。いずれも標高が2300〜2400mもある立派な山である。山頂からの展望は半分あきらめていただけに、こうして周辺の山々が見渡せるだけ感謝しなければならないようだった。山頂では夫婦連れの登山者が3組ほど写真を撮ったりしながら休憩をしているところだった。みんな反対側の志津小屋経由で登ってきた人達だった。
私は一通り山頂からの展望を楽しんだ後、二荒山神社奥社の軒下にザックを下ろして天候の回復を待つことにした。吐く息は真っ白である。寒々とした山頂の風景はもう晩秋を通り越して、冬がすぐ近くまで忍び寄っていることを感じさせた。石に座っているだけでは寒さに震えるばかりで、ガスコンロを出してカップラーメンを作る。ガスの青白い炎に手をかざすと冷え切った手のひらにようやく感覚が戻ってくるようだった。
しばらくすると上空には少しずつだが青空が覗き始めていた。雲間から陽射しが差すとくすんでいた風景が明るさを取り戻し、荒涼とした風景がいっぺんで秋山の風景に変わった。見下ろすとガスの切れ間からは中禅寺湖も少し見えるようだ。湖は陽の光を反射してキラキラと輝いて見える。1時間近く休んだ後で山頂を後にすると途中で多くの登山者が登ってくるのに出会った。みんな天候が回復したのを見計らって登ってきたのかも知れなかった。下るにしたがって徐々に気温も高くなってきていた。4合目の標識が立つ石の階段には、先ほどまでの寒々とした山頂が信じられないほどに、暑い陽射しが降り注いでいる。陽の温もりがとってもうれしくて、私は腰を下ろすとしばらく立ち上がる気持ちになれないでいた。
一合目
男体山山頂